Mar 3, 2015

素粒子理論の概要

1. 素粒子理論の概要

1.1 素粒子の分類

原子核以下の世界の粒子を分類する。
グループの階層を低いものから高いものへ、グループ、族、類と呼ぶことにする。

ただし、存在が実証され多くの物理学者に支持されている主な粒子を扱う。

素粒子たちは、これ以上分解できない純粋な素粒子(以下単に「純素粒子・類」と呼ぶ)と、
複数の素粒子が結合して一つの粒子てとして見える「複合粒子・類」、および、
複数の粒子集団を一つに見立てた「準粒子・類」に区分される。

(a) 純素粒子・類

純素粒子・類は、フェルミ粒子・族とボース粒子・族に分類される。

フェルミ粒子・族は、スピン角運動量の大きさがħの半整数 (1/2, 3/2, 5/2, …) 倍の純素粒子・類である。
ボース粒子・族は、スピン角運動量の大きさがħの整数倍の純素粒子・類である。

 [フェルミ粒子・族, ボース粒子・族  ∈ 純素粒子・類]

(a.1) フェルミ粒子・族

フェルミ粒子・族は、クオーク・グループとレプトン・グループに分類される。

 [クオーク・グループ, レプトン・グループ ∈ フェルミ粒子・族 ∈ 純素粒子・類]

(a.1.1) クオーク・グループ

クォーク・グループには、6種類の粒子があり、
アップ、ダウン、チャーム、ストレンジ、トップ、ボトムである。
クォークは、単独で取り出すことは不可能であるとされる。

クォークの性質は、質量があり、電荷が、+2⁄3 e, −1⁄3 eと分数になり、
スピンが1⁄2と半整数になり、色荷があり、バリオン数が1⁄3と分数になる。

クォークの反物質は反クォークである。

 [クオーク・グループ ∈ フェルミ粒子・族  ∈ 純素粒子・類]

(a.1.2) レプトン・グループ

レプトン・グループには、反物質を合わせて12種類の粒子があり、
電子と陽電子、
ミュー粒子と反ミュー粒子、
タウ粒子と反タウ粒子、
電子ニュートリノと反電子ニュートリノ、
ミューニュートリノと反ミューニュートリノ、
タウニュートリノと反タウニュートリノがある。

 [電子         ∈ レプトン・グループ ∈ フェルミ粒子・族  ∈ 純素粒子・類]
 [ミュー粒子   ∈ レプトン・グループ ∈ フェルミ粒子・族  ∈ 純素粒子・類]
 [ニュートリノ ∈ レプトン・グループ ∈ フェルミ粒子・族  ∈ 純素粒子・類]

電子の性質は、質量があり、電荷は-e、色荷を持たず、スピンが1⁄2と半整数になり、レプトン数は1である。

電子の半径は、素粒子の標準模型では0されている。実験では、上限値: 1.0 * 10^−22 mが得られている。

(a.2) ボース粒子・族

ボース粒子・族は、ゲージ粒子・グループとスカラー粒子・グループに分類される。

 [ゲージ粒子・グループ, スカラー粒子・グループ  ∈ ボース粒子・族 ∈ 純素粒子・類]

(a.2.1) ゲージ粒子・グループ

ゲージ粒子・グループには、4種類の粒子があり、
光子、 ウィーク・ボゾン(WボソンとZボソンの二種)と、グルーオンがある。

 [光子       ∈ ゲージ粒子・グループ ∈ ボース粒子・族  ∈ 純素粒子・類]
 [Wボソン    ∈ ゲージ粒子・グループ ∈ ボース粒子・族  ∈ 純素粒子・類]
 [グルーオン ∈ ゲージ粒子・グループ ∈ ボース粒子・族  ∈ 純素粒子・類]

素粒子物理学のゲージ理論によると、
ある粒子とある粒子の相互作用とは、
その粒子の間でゲージ粒子が交換されることであり、
それによって粒子間に引力や反発力が生じるとされている。

光子は、電磁相互作用を媒介する素粒子で質量が0、電荷0、スピン1、ただし運動量がある粒子である。運動量があるから質量が0でもエネルギーがある。

ウィーク・ボゾンは、弱い相互作用を媒介する素粒子で、
ごく短時間のうちに別の粒子に崩壊してしまう。

Wボソンは、陽子の約80倍の質量があり、スピン1の粒子で、電荷の違いでW+とW-の二種類がある。
W+とW-は互いに反粒子の関係にある。
Zボソンは、陽子の約90倍の質量があり、電荷が0、スピン1の粒子で反粒子は自分自身である。

グルーオンは、ハドロン内部でクオークの強い相互作用を媒介する質量が0、電荷0、スピン1の粒子である。
グルーオンは、色荷(カラー)と呼ばれる量子数を持ち、その違いによって全部で8種類のグルーオンが存在する。
グルーオンは、人類の技術力程度では単独で取り出すことは不可能であるとされる。

(a.2.2) スカラー粒子・グループ

スカラー粒子・グループには、1種類の粒子があり、
ヒッグス粒子(Higgs boson またはヒッグス・ボゾン)である。

 [ヒッグス粒子 ∈ スカラー粒子・グループ ∈ ボース粒子・族 ∈ 純素粒子・類]

しかし、ヒッグス粒子は、まだ発見されていない理論上の粒子である。
ヒッグス粒子はスピン 0 のボース粒子である。
ヒッグス粒子は素粒子の質量を説明することができる粒子である。

(b) 複合粒子・類

複合粒子・類は、ハドロン・族、原子核・族、その他・族に分類できる。

 [ハドロン・族, 原子核・族, その他・族 ∈ 複合粒子・類]

(b.1) ハドロン・族

ハドロン・族は、バリオン・グループと中間子・グループに分類できる。

 [バリオン・グループ, 中間子・グループ ∈ ハドロン・族 ∈ 複合粒子・類]

ハドロン・族は、クオークが強い相互作用で結びついた複合粒子のグループである。

(b.1.1) バリオン・グループ

バリオンは、3つのクォークとグルーオンから構成される粒子であり、
スピンが1⁄2と半整数である。

バリオン・グループには、
陽子と反陽子、中性子と反中性子、
さらに、
まだ観測されていない理論上の粒子も含めて、
4種類のデルタ粒子とその反粒子、
4種類のラムダ粒子とその反粒子、
12種類のシグマ粒子とその反粒子、
16種類のグサイ粒子とその反粒子、
10種類のオメガ粒子とその反粒子
がある。

 [陽子, 中性子 ∈ バリオン・グループ ∈ ハドロン・族 ∈ 複合粒子・類]

陽子は、電子の約1836倍の質量があり、電荷は+e、色荷を持たず、スピンが1⁄2の粒子である。
陽子は平均寿命が極めて長くこの宇宙のビックバン年齢より長い。

中性子は、電子の約1838倍の質量があり、電荷は0、色荷を持たず、スピンが1⁄2の粒子である。
単独の中性子は、平均寿命が885秒であり比較的短い。
ただし安定した原子核中の中性子は、見かけの寿命が、陽子程度に極めて長くなる。
その理由は、陽子と中性子がπ中間子を絶え間なく交換すること(強い相互作用)で絶えず相互に変換しており、
変換後の中性子は生まれたての中性子となり、平均寿命の885秒に到達しないためとされている。

陽子と中性子の質量はほぼ等しいが、陽子が中性子より電子二個分程度だけ軽い。

陽子と中性子の半径は、約 1.2 * 10^ -15 m = 1.2 fmとされるが、
3つのクォークとグルーオンから構成される陽子や中性子という空間の半径と考えなければならない。

不確定性原理により,プランク定数hを粒子(例:π中間子)の質量エネルギーmc^2で割って得られる
10^(-23)秒位の時間内ならば、エネルギー保存則に反して中間子が現れることができる。
(プランク定数の単位から質量エネルギーと時間の不確定性をうんぬんすることは、正しくないというような議論はあちこちで見つかるが、この計算方法で得られる仮想中間子の到達距離と陽子の実験で求められた半径はとても近いのも事実 2016/11/7)

陽子と中性子以外のバリオンの平均寿命は、10のマイナス10乗程度と極めて短い。

(参考: 原子核の崩壊 http://www.th.phys.titech.ac.jp/~muto/lectures/INP02/INP02_chap04.pdf)

(b.1.2) 中間子・グループ

中間子は、メソンともいう。

中間子は、クォークと反クォークのペアによって構成される粒子であり、
スピンが整数(0, 1, ...)である。

中間子の平均寿命は、10のマイナス8乗からマイナス24乗程度(ナノ秒単位)と極めて短い。

中間子は、π中間子やその他(反粒子を入れて30種類ほど)がある。

π中間子は、スピンが0である。
π中間子には、π0、π+、π−の3種類(電荷の違い)がある。
荷電π中間子の質量は約139 MeV/c2、π0はわずかに軽く、質量が約135 MeV/c2。

π中間子は、陽子と中性子を原子核中で束ねている強い相互作用を伝達している。

 [π中間子 ∈ 中間子・グループ ∈ ハドロン・族 ∈ 複合粒子・類]

(b.2) 原子核・族

元素の原子核である。

 [ 原子核・族 ∈ 複合粒子・類]

原子核は、陽子と中性子で構成されている。
陽子の数が原子番号に相当し、原子の化学的性質、
つまり原子核の電荷を決定し、原子としての電子の数も決定する。

陽子と中性子の合計数が原子核の質量数を示す。

原子核の半径は、水素の原子核(つまり陽子)で、約 10^ -15 m = 1 fmである。
より重い原子核では、その質量数のほぼ1/3乗に比例する大きな半径となるが、
大きく重い原子核、たとえば鉛でも、10 fm を下回る。

原子核の厳密な質量は、陽子と中性子の単独の質量の合計より少ない。
理由は、陽子と中性子の安定結合により余剰エネルギーを解放・放射したためである。
原子核の質量を計算するヴァイツゼッカー=ベーテの半経験的質量公式がある。

全ての核種の中で最も安定な原子核は、ニッケル62(陽子28個、中性子34個)の原子核である。

 [ 水素       ∈ 原子核・族 ∈ 複合粒子・類]
 [ 重水素     ∈ 原子核・族 ∈ 複合粒子・類]
 [ ニッケル62 ∈ 原子核・族 ∈ 複合粒子・類]

(b.3) その他・族

その他・族には、異種原子・グループ、ハイパー核、ダイクォーク、 原子、分子、イオン、超原子、超分子がある。

異種原子・グループには、ポジトロニウム ・ ミューオニウム ・ パイオニウム ・ プロトニウムがあるが、
説明は省略する。

 [ その他・族 ∈ 複合粒子・類]

(c) 準粒子・類


準粒子・類には、ダヴィドフソリトン、励起子、マグノン 、
フォノン、プラズモン、ポラリトン、ポーラロン、ロトンがあるが、
説明は省略する。

 [フォノン    ∈ 準粒子・類]
 [プラズモン  ∈ 準粒子・類]

フォノン、プラズモンは、固体物理の理論で出てくる。

1.2 フェルミ粒子とボース粒子

素粒子のスピン角運動量が半整数であるか整数であるかで、フェルミ粒子とボース粒子を区別する。

これ以上分解できない純素粒子・類をフェルミ粒子・族とボース粒子・族に分類できた。

また、複合粒子・類も、スピン角運動量によって、フェルミ粒子とボース粒子に分類できる。

1.2.1 フェルミ粒子

フェルミ粒子は、スピン角運動量の大きさが、
ħの半整数 (1/2, 3/2, 5/2, …) 倍の粒子である。

レプトン・グループの代表の電子、さらに、
三個のクオークから構成されるバリオン・グループの陽子と中性子が
フェルミ粒子の代表である。

イタリア=アメリカの物理学者エンリコ・フェルミ (Enrico Fermi) に由来して、
フェルミ粒子は、フェルミオン(Fermion)とも呼ばれる。

(a.1)パウリの排他原理

フェルミ粒子は、1つの系内で2個の粒子がある同じ量子状態になることが許されない。
これを、パウリの排他原理という。

具体例には、フェルミ粒子である電子は、原子の周囲の1つの軌道には、
互いに逆向きのスピンをもつ2個の電子しか入ることができない。

(a.2)フェルミ=ディラック統計

熱平衡状態にある同種のフェルミ粒子からなる系が従う量子統計を
フェルミ=ディラック統計という。

以下概略だが、同種粒子N個からなる系を扱う場合、
粒子間に働く相互作用が非常に小さいとみなせるならば、
粒子は独立の運動をすると考えられる。
この粒子の運動は、量子力学では1粒子に対する
シュレーディンガー方程式を満たす波動関数として記述できる。
これを1粒子状態という。
それらをエネルギーの低いものから順に番号づけし、
エネルギーの値をε1、ε2、...とする。
各粒子はこれらの許される状態のどれか一つをとる。
量子力学でも、同種粒子の区別はできないので、
N粒子からなる系のある一つの量子状態は、
各1粒子状態に粒子が何個ずつ入っているかによって指定される。
この数を占有数という。
この占有数が0または1しか許されない場合をフェルミ統計という。

(a.3)フェルミ縮退

フェルミ縮退(degenerate matter)とは、
フェルミ粒子がフェルミ分布に従うために低温で示す振る舞い。

人間の常識的感覚(古典理論)では、
温度、すなわち全粒子の平均運動エネルギーを下げていくと、
全粒子も平等にできるだけ低いエネルギー状態へ移っていこうとすると感じる。

しかし、フェルミ粒子の系では、パウリの排他原理により、
エネルギーの低いほうから状態の種類を並べて、
低い方の状態から順に粒子がそこを専有していくので、
全体があるエネルギーより低くなることができなくなる現象。

(a.4) 金属の自由電子

また、金属の自由電子は、
パウリの原理に従う自由電子気体(理想フェルミ気体)としてモデル化される。
自由電子の平均自由行程は、1cm以上とされ、
周期的な配列の金属イオン殻には散乱されない、
ただし、他の自由電子に散乱される。

金属の自由電子は、室温程度ではフェルミ縮退している。
フェルミ縮退のため、自由電子の熱容量(金属の比熱)は、
古典粒子として考えた場合よりもずっと小さい値になる。

自由電子のフェルミエネルギーとは、
基底状態(絶対零度)において、電子によって占められたエネルギーで
最高の準位(軌道またはバンド)のエネルギーであり、
10のマイナス11乗エルグ(数eV)程度である。

フェルミ温度とは、フェルミエネルギーを温度で表したものであり、
10の5乗[K]程度と室温よりずっと高い。

金属ナトリウムのフェルミ速度は、
1.03×10の8乗[cm/sec]
フェルミエネルギーは、4.81×10のマイナス12乗エルグ(3.01eV)である、
フェルミ温度は、3.49 × 10の4乗[K]。

したがって千度程度の加熱で、
金属の自由電子が水のように沸騰するようなことはない。

1.2.2 ボース粒子

ボース粒子の代表例は、ゲージ粒子・グループの光子である。
中間子もボース粒子である。
フォノンやマグノンのような準粒子、超伝導に関与するクーパー対もボース粒子である。

ボース粒子は、スピン角運動量の大きさが、
ħの整数倍(0, 1, 2, …)の粒子である。

偶数個のフェルミ粒子から構成される系は、
スピン角運動量の合算により、
一つのボース粒子と見なすことも出来る
(電子のクーパー対、ヘリウム3のクーパー対)。

ボース粒子は、1つの系内であっても
同一の量子状態をいくつもの粒子がとることができる。

インドの物理学者、サティエンドラ・ボース (Satyendra Nath Bose) に由来して、
ボース粒子・族は、ボソンまたはボゾン (Boson) とも呼ばれる。

(b.1)ボース=アインシュタイン統計

熱平衡状態にある同一種のボース粒子からなる体系が従う量子統計を
ボース=アインシュタイン統計という。

粒子を小球とし、1粒子状態を器で表すとする。
2個の球を3個の器に分ける場合、
球がA,Bと区別できるときには各球が三つの器のどれに入るかで
3×3=9通りが可能だが、
区別できないと図の(2)のように、
2球とも同じ器に入る場合が3通り、
別の器に入る場合が3通り、計6通りしかない。
ボース=アインシュタイン統計ではこの6通りを考える。

(b.2)ボース=アインシュタイン凝縮

ボース=アインシュタイン凝縮 (Bose-Einstein condensation) は、
多数のボース粒子が一つの量子状態を占めることで現れる物質の状態である。

ボース=アインシュタイン凝縮は、外部ポテンシャルによって閉じ込められ、
弱く結合しているボース粒子の希薄気体が、絶対零度近くの低温まで冷やされたときに生じる、
外部ポテンシャルの最低の量子状態であり、
個々の粒子の微視的な量子状態の効果が、
巨視的なスケールの粒子集団の凝縮現象として発現する。

固体、液体、気体、プラズマという物質の四相に加えて、
ボース=アインシュタイン凝縮は、第五の相とも言える。

例は、ボース粒子であるヘリウム4による超流動現象。粘性が0となり、流動性が高まり、
容器の壁面をつたって外へ溢れ出たり、原子一個が通れる程度の隙間に浸透したりする現象。

電気抵抗が0となる超伝導現象を説明するBCS理論では、
電子の対であるクーパー対がボース粒子として振る舞い、
ボース=アインシュタイン凝縮が起きているとみなす理論である。